toggle
2022-11-16

劇団5454公演 ビギナー♀千秋楽観戦記!(ネタバレあり

 終わってしまった。

 千秋楽を観劇し終えて、劇場を一歩出るといつもそう思う。
 照明のついた舞台を見つめていた楽しい時間は終わって、駅に向かう人の流れの中、自分の生活に戻って行く。
 何とも言えない侘び寂びのようなものを感じながら、バッグに入ったチケットの半券とパンフのことを思う。楽しかった舞台は流れ去る時間のように消えてしまったわけではなく、これを観劇すると選択した私の中に残り私を構成するものとなったのだ。

 いいお話でした。

 ビギナー♀自体は過去のオムニバス公演「カタロゴス 青についての短編集」の中から掬い上げられた一編だ。
 物語の主軸は変わらない。オムニバスの一編から掬い上げられて、より磨かれて輝きを放つようになった。
 正直、カタロゴスの時はコールドベイビーズってお話の方が好きで、ビギナーはちょっと苦手な話くらいだった。苦手とはいっても、なんというか女子の黒歴史のようなものを感じて共感羞恥でもだえ転がるような苦手さだった。
 でも観ちゃうんだ。そう言う癖のある物語だった。

 ところが、今回この一編が掬い上げられて「化けた」。
 少し物悲しくて、でも頑張ってかなきゃなと思うような、日常のじんわりとしたお話ではなく、沢山の人間が輝きを取り戻してブレイクスルーを遂げて行く物語に変わった。

 まさしく「青春」と言う「青臭くて」「恥ずかしくて」「楽しくて」「パワフルで」「前に進む」物語になっていた。
 前楽のフリートークで春陽さんが「青春って「俺たち最強!」って言う感じ」と言っていたのがよく解る。
 共感羞恥に悶え転がりつつも、キラキラしちゃってみたくなる。
 そんな「極上の少女漫画」と仕上がり、2時間10分を彩っている素敵な舞台だった。

 で、少女漫画感は前回の観戦記で書き倒しているので、今回はネタバレありつつ3チームのお話を描きたいなと。
 ビギナー♀は3チームというか3世代というか3つのグループと世界から構成されている。
 まずはエモさ爆発「すすぎの高校演劇部」。
 高校演劇部の部員たちが融通の利かない顧問に定期公演の許可を取るために苦戦する物語。
 よくあるよね~と言う話なんだが、この物語がビギナー♀の世界に組み込まれると滅茶苦茶エモい。
 最初は三世代構成の若年部門だなとくらいしか思わないんだが、物語が進んで行くにつれてこの子たちこそがビギナー♀の主軸であり、世界の表現者であると解る。
 大人から見たら恥ずかしいほど青臭くて、でもパワフルで、多分3チームの中で一番最強。
 部員たちがやりたいという人生像を顧問の栄二先生が「恥かくのわかってて、止めないわけないだろ」と言っていたが、その恥こそが青春であり、このビギナー♀に登場する人物たちのすべての胸にあるものだ。
 高校生部員たちを見て「懐かしい」「うらやましい」と思う大人たち、そんな大人たちに代ってひたすらに先に進もうとする部員たち。
 そんな全体との関係性がめっちゃエモい。メタくてエモい。
 この物語の中で個人的に一番好きなユニットでした。

 そして、そんなメタくてエモい演出の中、今回のタイトルにも触れているビギナー♀チーム。
 高校演劇の次はJDのバドサー。バトミントンよりおしゃべりに夢中で、演劇部部員より少し大人な分、やる気やパワーだけではない気怠さを含みつつあるメンバーたち。
 高校生たちが打ち破らなきゃならないのが先生と言う大人なら、メンバーが打ち破るのは変化。
 大人になりたくないと言うほどでもないが、楽しい今と居場所を失いたくない。
 高校の時に先生を打ち破って手に入れた居心地の良い楽しさ。
 卒業という流れに背中を押されて、それでも今と言う居心地の良さにしがみつく。
 でも、そんなにいつまでもしがみついていられない。変化は怖いが思い切りをつけて先に進もうとして……ケンカして、いろんなものを壊してしまう。
 このあたりの女の面倒臭さが上手に描かれていて、一瞬イラっとするけれど、気が付けば応援している。
 友達ってクッソ面倒くさい時があるけど、でもトータルで見たらいい奴だし好きなんだよね。
 そんな微妙な機微を感じつつ、大人の面倒臭さと子供の不器用さみたいなものをポジティブに輝かせている。
 このチームで印象深いのは、みんなと喧嘩してはなが公園でぐだってた時に、健がはなを励ましつつ恋心を露わにしようとすると「それ以上言わないで」と花が止めるシーン。
 すごく解る。これこそがチームビギナーの世代が一番怖がる変化。
 はなは健が嫌いなわけじゃない。ウザいけどちょっといいやつくらいには思ってる。幼馴染でずっとこのつかず離れずでやってきて、この今が居心地良いのに、健はさらに進もうとしてくる。
 はなはそれが怖い。
 これはこのチームビギナー全体を象徴するようなシーンだと思ってる。
 背中を押され、進みたくないのに変わらなくちゃならない。今の居心地よさを未知の世界へ卒業しなきゃならない。それは前進だけど……不安だ。
 なんか自分が19歳の時を思い出す。
 今思わば19歳から20歳なんて大した変化はない。でも当時の私は20歳が怖かった。成人するのが嫌だった。今の世界が終わってしまうような気すらしていた。
 そんな自分とはなが重なる。
 はなはぱっと見わがままで嫌な女に見えそうだけど、多分、学生時代に一緒にいたらケンカしながらでも友達になってると思う。奈津子のような寄り添い方はできないけど、面倒くさい女だな! と切れながら、でも気のいい友達でいるんじゃないかな。

 最後? はチームワカバ。都落ちしそうな元OLの杏奈を軸にスナック若葉に集まる同級生たちの物語。このチームのエモさは、チームビギナーとは別軸にありながらも、彼らの未来でもあるように思える。高校を卒業して、大学生になって、さらにその先に進んだ大人たちの物語。
 大人になって、ある意味誰かに何かを強要されるような束縛が無くなり、そこに居るのも先に進むのも自由。いつまでもここに居たい。ずっとずっとバドミントンしながら楽しい仲間と一緒に。
 女子大生よりはるかに気怠く熟んで行く大人。
 ここにも変化へのストレスが存在する。
 付き合いが長く、同棲が長く、結婚できないあるあるみたいなカップルの梢とカズキ。
 子供時代からなんとなく続いているいろんなストレスの正体が「変化」であることを梢は自覚している。
 結婚して居心地のいい関係が変わるのが怖い。
 面白いのはこれを自覚してるのが梢だけで、相手のカズキはなんとなくなんだよね。
 鈍感力MAXなカズキは毎日が楽しそう。それとは対照的にストレスの正体を知っている梢は葛藤を続ける。好きだけど、独占したいけど、結婚して変わるの怖い。結婚に踏み出そうとしたら、もしかしたら変化を嫌がって結婚もできずに終わってしまうかもしれない。
 そんな中にカズキのもと憧れの人杏奈が都会から帰ってくる。
 劇中では杏奈が変化につかれて都落ちしてくるんだけど、梢から見たら杏奈は強制的に変化をもたらそうとしてくる存在。カズキの憧れの人と言うだけで、カズキが杏奈を選んでしまったら、強制的に関係が変化してしまう。
 それなら自分で打ち破る! とばかりに自分からプロポーズして、カズキとの関係を前進させようと決める梢。
 チームワカバの物語は都会で上手く行かずリセットしたくて故郷に戻る杏奈の前に進むための物語でもあるけれど、同時に高校時代からずっと続いている変化への怖さに打ち勝とうとする物語でもある。
 それが梢の物語なのかなと。
 高校からってのもエモいですよねw
 そこに高校演劇部の顧問である栄二が関わってくるのもメタい。
 高校生たちが打ち破れていない大人代表の栄二が、大人たちの中で「頑固ジジイ」と打ち砕かれてしまうののがなんともメタい。ぐるっと巡ってつながる物語のギミックの面白さでもありました。

 そんなメタくてエモい物語は柔らかくさらに先に続く姿を見せて幕が下りる。

 話に落ちがないわけじゃない。試合のこと、生活のこと、定期公演のこと、いろんなことが走馬灯のように美しく流れて、そこにあって、それぞれが彼らを構成して、そして先に進んで行くのだという物語。
 集団劇の醍醐味だなと思うような沢山の登場人物たちそれぞれの物語が丁寧に描かれ、それを糸を撚るようにまとめ上げ、観ている人たちの中にそれぞれの答えを芽生えさせるようなお話でした。
 芝居が終わって、電車で帰る途中で、あの子あの後どうなるのかなぁと考えるのも楽しい。

 そしてツイッターで春陽さんが呟いておられましたが、「終わりの寂しさを感じ始めてからがこの作品の真骨頂です。」と言う言葉。
 先に進むために打ち破った先で、ほんの少しだけ「元居た場所」を振り返ったときに感じる寂しさ。
 変われたんだ! 進めたんだ! と言う喜びと充足と同時に、選ばなかった選択肢や選んで手放したものを思う侘び寂び。
 終わる前から、芝居中から、終わった後まで味わえる。
 本当に素敵な物語でした。

 ここからは個人的な解釈感想から、超個人的萌え萌えになるのですが、とある方に「栄二先生のドSっぷりが好きでしょ!」と言われましたが、ええもちろん大好物。と言うかわかってる!好きです大好き。今からざっくり12年前に春陽さん率いるPU4484のアスターサービスで小山さんを観た時から春陽さんの書くドS男は大好物ですありがとうございます。
 ……と気色の悪い早口でまくしたてそうになるくらい好きですw
 窪田さんの栄二、いいキャラでした。好きです。

 でも、今回最高に好みだったのはもう一人いらっしゃって、岡元あつこさん演じるスナック若葉のママ・燈子さん!
 好きなんですよ。こういうママっぷりの良いママって!
 一見滅茶苦茶、時に大人びて、でも自分に正直で「今を生きる」女。
 ビギナー♀で三世代がクロスオーバーしながら紡がれる中でも燈子さんは一番最年長で、でも一番気持ちが若くて青春の象徴である「私、最強!」である。
 いいじゃん、いいじゃん、最高じゃん。
 そして同じくアラフィフ世代である私。トゥナイト2で女子大生レポーターだったあのTVで観てたあっちゃんのエモさよ。
 めっちゃ元気貰って劇場を後にしましたw

 若手チームも良かったんですけど、どうしても大人なので大人に感情移入しがちですw

 まだ配信アーカイブで見ることもできるので、もう一回くらい振り返りたいなと思いつつ、思ったときに書きなぐり個人的趣味と勝手解釈100%の観戦記をお届けさせていただきました。
 次の公演はまだ発表もありませんが今から楽しみな私ですw

 次回も劇場でお会いできますことを祈りつつ。
 劇団5454 2022年秋公演「ビギナー♀」お疲れ様でございました!

関連記事