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2023-03-05

若手演出家コンクール2022 春陽漁介「宿りして」観戦記!(ネタバレあり

日本演出者協会主催・若手演出家コンクール2022に出展された春陽漁介さんの「宿りして」を観劇してまいりました。
下北沢の「劇」小劇場で、この作品が見れたのは行幸だった。
下北沢の小劇場、演者も少なく、美術は箱馬、客席のどこに座っても舞台とひざを突き合わせるような近さ。そんな劇場で演じられたのがこの作品だというのがたまらなくエモい。
ありきたりなメタフィクションかと思わせて、気が付けば本当はどちらがフィクションなのかわからなくなり、最後の狂気はあまりにリアルで……長く春陽漁介作品を観てきたファンからすると「懐かしの春陽さん」でした。

古典の授業中、教科書を読む教師。ふと違和感を感じて目を上げるとそこには……

出だしからとっても不穏です。人に見られているとメンタル病んでる先生とその同僚二人。同僚は最初は心配げに話を聞いていますが、だんだん話について行けなくなり、一人はまるで異質なものを見る目つき。そりゃそうだよね、そうなりますわ。と思いきや、もう一人の同僚は「その話、面白いですね」とばかりにノリノリで乗ってくる。最初は自分の異質さを理解していたが故にそのノリノリな態度にわけがわからない先生だけど、話しているうちになんだか楽しくなってきて……
先生は自分が演劇の舞台に出演する主役なのだと理解します。
理解した後は先生もノリノリ。授業も軽やかに、メンタル病んでた頃の不穏さは見当たらず、ついには新しいロマンスの予感が!
もちろん先生は主人公なので、ロマンスが訪れるのは当然。でも幸せいっぱいHappyLuckyな先生に、一人の同僚がほんの少しの意地悪心で「そんな幸せなばっかりじゃドラマはつまらない、何か不幸が起きなくちゃ!」
なんてこと言うんだ同僚!
でも言っちゃう気持ちはちょっとわかる。誰だってウザいくらいに幸せ満喫してる様子を見せられると、やっかんじゃうのは仕方のないこと。この間まであんなに病み病みだったのにね。
そして、そんなほんの出来心のような意地悪な言葉に、先生のノリはさらに上がってしまう。
そうですよね、起承転結大事!転で不幸にならずして何がドラマか!
当然、先生に不幸が降りかかります。幸せいっぱい好き好き大好きな彼氏が「病気でもう先が長くないかもしれない」のです。
話の途中ですが、私このシーンが最高に一押しなんです。
咳にむせ、苦しそうに息を切らせながら自分の病気を告白する恋人。
その恋人を見て、一瞬、本当にほんの一瞬、ガッツポーズでもしそうな先生のにこっとした笑み。
そのあとすぐにシリアスな表情に戻り、恋人に結婚しようと逆プロポーズ。
ですよね、ここは物語のヒロインとしては、これからは「余命幾ばくもない恋人を支える」役柄。重要です。

そんな感じで、普段の生活の中で自分が演劇の中の登場人物だと知ってしまった先生のお話。
メタフィクションではありがちな出だしではあるのですが、やっぱり春陽さん節が面白いなぁと思うのは、このメタフィクションなギミックも中々に気持ちよく伏線回収されたりするのですが、そんな派手なギミックの中に、しっかり人間ドラマが仕込まれているところ。
人間の承認欲求について、それに踊らされ、それに飲み込まれ、自分を狂気で見失ってしまうまでをしっかりドラマで魅せてくれる。
これ、現実離れしたメタフィクションとして作られていながら、その本質と言うか役たちの中にはものすごく生々しいリアルな人間が描かれているんですよね。
私の中で「突拍子もない設定の中に、地に足の着いたリアルを描く」のが春陽さんはめちゃくちゃうまいと思っているので、それをガッツリ堪能できたこのお芝居は本当に最高でした。

あと、劇団5454の芯のようなものも見れてすごくよかったと思います。
大きな舞台で沢山の客演を回すエンターテイメント性だけでなく、こうしてしっかりと少人数でメッセージを刻み込んでくる演技と演出。ト音の時に「劇団になってよかったな」と感じたものを、今日もまた再び感じたように思います。

今回は本当にみんなよかった。
主演の木並さんの先生も、木並さんの得意技でありながら、狂気と不穏と言う新しい一面も見せてもらいました。ホントにあのニヤッとする一瞬が最高に大好きです。
同僚の先生を演じた縁さんと岸田さんのそれぞれの役割も良かった。いつもニコニコ素敵お姉さんな縁さんがちらっと見せる意地悪さがすごくよくて。でもちょっと言いすぎちゃったなと思って、居心地悪そうにしてる感じとか、あのメタフィクションの中で現実をものすごく感じさせてもらいました。岸田さんの同僚も同意によって巻き起こってしまった暴走を、きちんと「不幸との対比で感じる幸せではなく、幸せはただ幸せなままでいい」と言うメッセージをしっかりと送ってくれます。木並さん演じる先生だけでなく、現実社会にたくさんいる「先生と同じ人」たちに、この言葉が届くことを祈らずにはいられませんでした。
最後の最後に客席から声を上げる及川さんもすごくいい役でした。
私たち、ちゃんと楽しむ力あるんで、私たちにはお構いなく。
この言葉は客席全員の心の代弁だったと思います。私たちのことは気にしないで、貴方はそのあるがままで十分に魅力的。どんなドラマも押しつけられる喜怒哀楽ではなく、私たちが読み取る喜びと行間を空想する快感がある!
多分、演劇大好きな私たちはみんなそんな気持ちを胸に抱いて客席に座っているから。
そんな心の代弁をありがとうございました。

女性陣の大活躍在りつつも、感心するのは男性陣の演技力もすごかったですよ!
今回、言葉はあれですが、窪田さんも高品さんもモブキャラ。しかも窪田さんはまたしてもちょっと怖い系眼鏡教師。いやもうありがとうございますごちそうさまですって感じなんですが、またしてもと書いたのには理由があって。
このお二人、キャラ設定は眼鏡教師と陽キャ系同級生といつか見たことのあるお二人な役回りなんですよ。
でも、ちゃんと今回のお芝居のためのカスタマイズと言うか役作りがされていて、〇〇役と書いてしまうとそれだけなんだけど、ちゃんとそれだけじゃないものがある。芝居におけるモブキャラの重要性をしみじみと感じました。
決してキーパーソンではないけれど、でもそこにその人がいないと物語が進まない。そういうものをしっかりと感じさせてくれました。

こうして書いていると本当にバランスのいい舞台でした。
面白かったし、細かいところまで手が届くし、考えられること思わされることもたくさんある。
これはたくさんの人に演じてもらいたいお芝居だなと思いました。
春陽さんは高校演劇にも力を入れてらっしゃるので、そう言うところでもぜひやってほしいなぁと思います。きっとすごく楽しいだろうし、このお芝居は観ても楽しいけど、きっと演じることもすごく勉強になり楽しいと思う。
そんな風に感じさせられる一作でした。

と言うわけであと30分で最終審査が始まるわけですが、その前に思いのたけを書き散らかさせていただきました。
早くも次の舞台が楽しみですが、まずは最終審査を配信で観てきます!

春陽さん!頑張ってください!

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