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2016-09-19

劇団5454第10回公演『時喰』東京千秋楽観戦記! 前編(ややネタバレあり)

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劇団5454様第10回公演『時喰』東京公演千秋楽お疲れ様でした!
本当にあっという間に駆け抜けてしまった気がしますが、それでも、その中に凝縮された時間をじっくり堪能させていただき、また、自分の中に蓄えさせてもらいました。
どんな発酵食品や乾物よりも濃く味わい深く、そして、強く心に残る時間だったと思います。

ホントにあっという間でしたね。
舞台を観ているときは時の流れが変わります。
舞台に立つ役者さんたちが稽古を重ねて貯め込み続けていた時間を思いっきり食べてしまってるのだと思います。
またこの疲れを癒して、英気を養って、たっぷりと時間を貯めこんで、大阪公演で思いっきり食べさせていただきたく思います。

今回は公演期間も短くて、役柄が即ネタバレになりそうなことも多かったので、個別の感想を書いてなかったのですが、本日は東京公演も終わったことなので、全キャストさまの感想記を行きたいと思います!
というわけで、ややネタバレ有なのでネタバレが嫌な方はここから先ご遠慮いただけますと、お互い幸せに暮らせます!

今回の観戦記前編では男優陣に、後編を女優陣に捧げさえていただきたく思います。
お付き合いよろしくお願いします。

まずは私の大好きな洪時村の3バカトリオ3人組から。

関幸治さん演じる六平宗治!
今回は村人A的な役でしたが、ただのモブじゃないところが素敵なところ。全体的なムードメーカーでした。
牧歌的でのんびりした田舎の気のいいお兄ちゃんから、魑魅魍魎の得体の知れなさへジワジワと雰囲気を持ってゆく引導役だったと思います。
劇中にのんびりしに釣りに行こうと明るく盛り上がり、登場人物たちがキャッキャしている中、一人、ふっと陰りを見せるあの瞬間が大好きです。
平凡な中から非日常的なほの黒さを出してくる、あの匂わせ方はさすがだなぁと思うのです。なんというか、どかっと転換して落とすんじゃなくて、じわりと、え? おかしくない? そんなことない? でも、なんか、不安。
そう言うジワジワと染み込んでくるような得体の知れなさがある、ただの村人Aじゃない、面白い役でした。
あと方言というか訛り萌える! オッサン臭くてすごく良い! 今回も中々に心揺さぶってくださいました。大好きです!(大切なことなのではっきり言いました)

次は村尾俊明さん村の神職の一族であり喫茶店のオーナーでもある三貫納守人。
おばぁの孫か親戚なのかな。多分おばぁの後を継ぐものを呼ばなくてはならない身の上のはずなのに、のんきな喫茶店経営と常連の六平たちとのんびり暮らしている守人。
作務衣があまりにもナチュラルすぎて、最初神職がらみのキーワードになってる事に気が付かないくらい作務衣が自然でしたw
3人組の中で一番、躊躇っていた人もであると思います。ほかの二人ほど吹っ切って村のことより自分の快楽だと言えない人。どこか少し罪悪感を常に感じていた人。そんな躊躇う人を村尾さんが上手く演じておられました。
村尾さんの怖い顔もできるけど、その根底に優しさや良心を仄かに透かすようなキャラクターはホントすごいなと思います。あとやっぱり変え合いで笑いを取る間は絶妙。この後書きますが、廉平くん演じる要とのやり取りの絶妙な感じは劇団5454名物だと言っても過言ではないと思います!
息の合うやり取りは本当に観てて楽しいのでいいです!

そして、3バカ人組最後は板橋廉平さん演じる四防要。
劇団5454になってから初のヒール役ではないでしょうか。軽薄で調子がいいけど、どこか冷たく無機質な人。狂気というよりは、何かが欠落している人。欠落しているのが、正気なのか、良心なのか、モラルなのかはわからないけど、得体の知れなさが不気味な魅力でした。
六平が明から暗に変化する転換としたら、要は明であることは変わらないのだけど、猫だと思ってたらとんだ化け物だったというような変身する転換。しかし、見た目は変わらず、その正体に気が付いたときに恐ろしいものだったとわかる。
エキセントリックな役も多い廉平くんですが、これはまた新しいタイプのエキセントリックさだったんじゃないかと思います。いつもだったらこういうヒールは佑樹丸くんの方が得意そう。でも、多分佑樹丸くんだったらまた違ったヒールになってたかもしれないと思うので、この役もやはり廉平さんの要でよかったなと思いました。
軽妙な守人との掛け合い漫才に笑ってたことすら、正体が明らかになるともう笑えないくらい不気味。あんなにいい人だったのに、なんでこんなに変わった?というのではなく、言われてみれば最初からなんかおかしかったよと思わせる様な気が付かせない演技というのがすごかったです。あえて普通にしてたというのが本当に成功していて、ぞくっとさせられる怪演ぶりでした。

どうしてもドラマチックな展開のある人たちに目が向きがちになる中で、さりげなくその場にいる時喰たちがいい味を出してたからこその盛り上がりなんだと、改めて先輩チームの実力に感嘆した舞台でもあったと思います。

でも若者組も負けてませんでした!

小黒雄太さん演じる高橋健吾は、さりげなくありながらも、この先に起こる物語の複線を張る重要な役でした。
説明的になってしまいそうなキーワード多めのセリフをできる限り自然に噛み砕いての演技に持ち込むのは、大変苦労されたところかなと思います。
小黒さんの得意分野から、少し違う傾向の役で、観ている方はとても新鮮な気がしました。これはいつか銀縁メガネでインテリジェンスな小黒くんが観れる日も来ちゃうかなと期待のキャスティングでした。
春陽さんはいつも役は書きあてだからとおっしゃいますが、必ずしも得意分野を振っては来ないんですよね。新しい普段演じないようなところを、キャスと合わせに振ってくるので毎回楽しみにしているところでもあります。
演じられる方は難産苦難だと思いますが、新しい一面は悪くないと思うので、是非、ワイルドパワフルからインテリへの役幅の広がりに期待しています!

そんな健吾の親友が工藤佑樹丸さん演じる小宮山瑛太。
初っ端登場からビンタで退場ですが、その後、時間を食われた被害者として登場し、このSFな設定を上手い事客席の頭の中に刷りこんでくれる役でした。
語彙力の無さを舞台上でずっと嘆き続ける瑛太ですが、語彙力は無くてもその衝動を見事に体現して見せてくれた演技はさすがと思います。
あと、関さんとは違った意味でムード作りが上手い。流れの変化を引っ張ってゆくというよりは、その状況をきわめて強めてみせるというのがすごく上手だと思ってるのですが、今回もそんな見どころが一路と要の対決シーンでした。
あそこメインは当然一路と要が向かい合う緊張感ある場面なのですが、あの緊張感を高めるのにものすごく演技してるのが瑛太なんですよね。あそこで瑛太がみんなを逃がして、一路を強制的に連れ出すことで、その場の空気を上手く作ってる。ああいうシリアスで緊張したシーンになると、彼が面白マッシュルームヘアであることなんて関係なくすっ飛ぶじゃないですか? そういうその場の空気づくりがすごいんですよ! もちろんメインのシーンで雰囲気作りも上手いんだけど、自分が目立たない役でもきちっと空気を作ってくるところとかさすがだ……と思って観てしまいます。

独特の雰囲気というか今回最高にイケメンだったのは真辺幸星さん演じる江口渉。
幸星さんの渉はこれはもうキャラづくりの勝利というか、ずるい!イケメンずるい!なんでも許しちゃうじゃん!と思わせるイケメン。めっちゃ男前。
彼女連れで、滝行体験と渋いアトラクションをチョイスするのも男前なんですが、ちょっと嫌なところもあるんですよ。旅行先でなんか機嫌悪くなるとか。私なんかは現実で自分の彼氏がやらかしてくれたら、グーパン入れて速攻置いて帰るタイプなんですけど、そんな私でもどこか憎めない許してしまうような雰囲気を持っていて、彼女に対してキツイ言い方もするんだけど、それだけじゃない感じがすごくあるのです。
カノジョの由奈が傷を弄って血が出てしまって、普通にイケメンなら「大丈夫?」の一言もありそうなところを、血が出てるじゃん、気持ちわりぃって言い放ってしまう。でも、そんなでも、あ、心配して素直に言えないだけなのね、彼女大好きなのね感があって、安心して観れて嫌みのないカップルの彼氏役でした。
夜、喫茶店で、村に住めと言われて心揺れた彼女に「俺が滅亡するよ!」と言ってしまうその好き好きさもキュンと来るものがあるのです。
カッコつけてるのも、見え張ってるのも、素直になれないのもすごく自然で、今回のお話でも大活躍だたっと思います。

そして男性陣最後は、高野アツシオさん演じる一路弘明。
アツシオさん、地に足の着いた変な人上手い!
なんつー褒め言葉なんと思うけど、地に足がついてる浮世離れというか、リアルで等身大で、いる! こういう人いる! って感じはしっかりするのに、どこか架空の人という不思議な雰囲気がホントによくて、今回のこの物語の凡人一路と時喰一路はアツシオさんならではの出来上がりだったと思います。
その足に血がついてる感じ、苦悩しても人間でいる感じが、家族に救われ支えられ、人ではないとまで言われたものになっても、どこかで救われるなと言う感じを出してくれているのだと思いました。
父親として娘を叱るリアルな人間味、3人組と調子に乗るあたりもリアル、でも少しずつ壊れてくのに苦悩しながら、一気に娘と家族に害が及ぶとしって人間ならざるモノへの変化を遂げる異形の様子。
そして、静かな生活に戻っても、もう前と同じ姿でそこに居るのに、もう同じではないあの感じ。暗く暗転してゆくなか、大きく口を開けて時を食らうその様子はまさしくもう人間ではないという証拠。
決定的に違うものになってしまっても、それでも、以前と変わらぬ幸せだけはそこに残っていると思わせてくれるのが、今回のお話の救済だと思うのです。人間に戻れなくても救済がある。
変化してしまった時喰一路をみて守人も六平もあんなになりたくないと怯える。彼らはきっと一路のようになってしまったら、元の状態に戻れないことを怯えて、ああなりたくないという。
一路は別に何も悪いことをしていないのに、そんなものにされてしまって、本来ならば悲劇で終るはずなのに、そうではないところが春陽さんのお話の面白味でもあり、劇団5454の役者陣の技能でもある。
角度を変えたら悲劇になりそうなところを上手い角度で見せてくれる役者さんというのがアツシオさんだなぁと今回この役で観て改めて思いました。
本当に素敵な一路弘明で、時喰だったと思います。

さて、駆け抜けてメインパートを支えた男優陣に捧げさせていただきました!
もう今日で千秋楽だなんて信じたくない! 明日も明後日も劇場でお芝居が観たい! また時喰たちの時間をむさぼりたいのですが、残念ながらそれは食べてしまった過去になるので、しばらくこんな風に反芻して楽しみたいと思います。
噛めば噛むほど味が出てくる、思い返せば思い返すほど万華鏡のように面白味が湧いてくるこの物語を劇場で堪能できたことはこの上ない僥倖だと思っています。

この後、後編を決してメインではないものの、重要なドラマパートを支えた女優陣に捧げさえていただく予定です。
本日はひとまずここで。
興奮冷めやらぬうちにもう一度反芻して、明日の後編に備えます。

私の拙い観戦記事にお付き合いいただいております皆様、今しばらくお付き合いお願いいたします。

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