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2019-04-03

劇団5454第13回公演【ト音】観戦記!(ややリピーター向け!

只今、私のド本命戯曲であるところのト音ですが、先日3月27日から絶賛再々演中です。
同時に劇団員の板橋廉平さんと関幸治さんが劇団卒業を表明していて、本当に劇団5454で観れる【ト音】のラストランなんだなと痛感しています。

初演、再演、そして今回の再々演。

初演を見たときの感動はそのギミックの巧みさ。二回目のときに一度観た芝居がまるで違って見えるそれまで含めてシナリオの秀逸さを感じて。
劇団を立ち上げて、ト音という舞台を作り上げて、ああ、この劇団は絶対もっと先に進む、進化すると、心の底から思えた。

再演を見て、初演のシナリオからガラッと視点を変えてきた。
ギミックは変わらず、でも、藤と秋生の視点で進んできた初演と比べて、先生たちの視点が入り、よりストーリーが深みを増した。
その頃から、少しだけ、藤と秋生にはこの終わり方がベストだったのかな、このラストはこのラストで納得の行くものなんだけど、もう少し何か違った姿もあったのではないか。と感じました。

そして、再々演。
軸は変わらず。藤と秋生の物語。少しファンタジーではあるものの、ファンタジーならではのご都合主義は許されず、藤も秋生も現実と寄り添って生きて行かなくてはならない。それは過去作も含めて同じように見えて同じでは無いルート。
でも、それでも、藤と秋生が納得して、前を向いて進むのは何が一番ベストなのかを模索してきた果てに行き着く、ある意味、True Endとも言える最後の物語。

再々演を観て、この物語は1本の軸を中心として巡った三組の藤と秋生の物語であり、また、藤と秋生が繰り返し解を求めたやり直しの物語でもあったのかもしれないなと思いました。

今日はそんな【ト音】の世界を寄り鮮やかに出来るお手伝いが出来たら良いなと思いつつ、ネタバレ控えめにリピーター向けで観戦記を書き散らかせて頂きます。

まずは今作の再々演【ト音】!登場人物たちへの共感度は過去作と比べても一番かもしれません。
登場人物たちがより身近になったというか、キャラクター性強さからリアルな人物像へと変わってきている気がします。
そして、そのリアルな登場人物たちが、多分、3作中で一番悩みと問題を抱えていると思うのです。

そう言う意味でまず目を引いたのが、客演の及川詩乃さん演じる長谷川と同じく客演の松永渚さんが演じる戸井先生でした。
長谷川さんは元々過去作でも問題児だけど優等生というところでちょっと一目置かれてる感があったのですが、今回の長谷川さんはなんと言うか戸井先生の絡みでガツンと見せ付けられる文句なしの問題児。この長谷川さんと戸井先生のバトル(あえて戦いとします)は本当に生々しい。長谷川さんは頭はいいけどでもやっぱり子供という所を存分に奮って戸井先生に戦いを挑み、戸井先生はそれを抵抗しつつも教師であるプライドとか持ち前の負けん気とかで受けて立つ。
長谷川さんの優等生系問題児感というのは実は藤君にもちょっと言えるところがあるんだけど、多分、藤君VS戸井先生ではこの戦いは見れない。
長谷川さんだからこそ、戸井先生はこの問題を強く感じて反発してるのだなぁと言うのまでなんだかリアルに感じてしまって、ストーリーにパワーを感じます。

もちろん、主役の二人、大黒雄太さん演じる藤と板橋廉平さん演じる秋生にも変化が。多分、今までで一番問題を重く抱えている藤と秋生だなぁと。
嘘というストレスを抱えているのは変わらないんだけど、今までは本当に二人が対等で仲良くて支えあっているのが強く出ていただけに、最初から少し藤君に依存気味な秋生君というのは新鮮というとおかしいかもしれませんが、過去作を見てきた中でも新しいアプローチで、嘘とそれに付随する全てがストレスとなることがよく分かり、またその全てが苦しめてきた彼らの重さがよく分かるのです。
ちょっとそんな意地悪しなくても良いじゃんと思うような、これがカップルだったらそんな男は辞めといた方がよくない? なんかちょっと怪しいよと言ってしまいそうな不穏さが藤君にはあり、それに対して秋生も一緒にいるのが決して素直に楽しいばかりではないのに彼が居ないとダメだという感じがストレートに感じられて、ああ、問題ばっかりだけど、だからこそ巡り会ったのがこの二人なんだと思いました。

そう言う関係性の変化は結構あって、先生たちも見せる素顔がとても生々しい人間の顔。
理想の教師! とか、ステレオタイプな怖い先生! とかではなく、いろんな角度を持ってプリズムのように表情を変える細かなエピソードが満載です。

例えば、村尾俊明さん演じる坂内先生。
お調子者の坂内先生が、今回は結構ちゃんと大人な部分も見せてきます。
元々その傾向がなくはなかったんですが、やっぱり対峙する相手が五味先生が多かったので対比的に見えちゃってたのが、今回は他の先生たちとの絡みから人間関係を見せてきます。
他の先生たちを指導する姿、問題からただ逃げるだけじゃなく、ギリギリ踏みとどまって逃げる際の際で踏ん張っている様子。そう言うものを感じて、坂内先生のお株がちょっと上がってます!w
どうしても高野アツシオさん演じる五味先生が渋くて良い役なんですよねぇ。あのかっこよさと比べちゃうとお調子者が目立っちゃうのですが、今回は五味先生に負けじとシリアス張ってきます。
今回の坂内先生と五味先生の絡みは、坂内先生の消極的ではありながら頑張ってるところを感じさせてくれて、先生たちの葛藤もまた大きく問題となって浮き上がってきたと思います。

五味先生もラスト間際の屋上のシーンで始めて弱さを見せるのは変わらないのですが、そこまでへ至る道筋がほんの少し変わっていて、最後の職員室の古谷先生との会話で、この人もまた弱さを許容することが出来るようになった人なんだと救いを感じます。
あそこで戸井先生を語るのが坂内先生じゃないってのはすごいことだと思うんですよ!
最後まで強くて、弱みを見せても、再び強い仮面をかぶってスタスタと歩き始めていた過去作の五味先生も良かったですが、近作の五味先生の魅力はそこからもう少し人間的な厚みを持った良い強さになったのではないかなと思います。

ただ、先生たちの中でも変わらずいてくれる人も居ます。

それは決して悪いことではなく、安定とか安心とか、変わらなくても良いんだと言うことを体現してくれている、そんな先生が石田雅利絵さん演じる安達先生。
いや、変わってないって書いちゃいましたが、パワーアップはしてますw
でもいろんなものに立ち向かってゆく人たちが交差する中、安達先生が自分でも言ってますが、何もしないを貫くこともまた強さの一つだと思うのです。
調子が良くて、授業もコミカル。生徒に興味が薄くて一見テキトーだけど、生徒だって坂内先生ばっかりの学校じゃ疲れちゃうように、自分のことをじゃぶじゃぶ~って済ませちゃうその存在は重要に思います。
でもそんなじゃぶじゃぶ~なんてテキトーにしてそうですが、戸井先生への思いやりとかそれが例え自分本位なモノであったとしても、それが救う一瞬ってあると思うんですよね。坂内先生に対してだって裏表なく接して心配もする。
なんかこう影では「どうかと思うよ」と良いつつ、対面してる時は愛想笑いですごしてる古谷先生よりはずっとずっと坂内先生を慕ってるんだなという安心感があります。
坂内先生がお調子こいてくじけても、こういう人が居て上手くやっていけるんだろうなぁという感じでとても安心できる先生でした。

そして、今回ちょっと雰囲気が変わったと言うか、一際みんなが抱えるものが重くなったのを整理してくれている存在が、関幸治さん演じる古谷先生と榊小並さん演じる江角先生。
今までは割りと騒動の中心に居た感じの二人ですが、今回は傍観者というか第三者目線を強く持っている

初演の江角先生は本当に藤・秋生・長谷川・千葉の兄貴分のような生徒寄りの近い存在。
再演で少し生徒と距離を置いて生徒たちの動きをフォローするような存在。
再々演では、先生たちを傍観する古谷先生と生徒たちを傍観する江角先生という組み合わせ。

もし、俯瞰の立場から世界を見ることが出来るなら、この物語の中ではこの二人の立ち位置のように思う。
それは観客の目線にも近く、私たちが藤君たちを理解するために手を引いてくれるようにも感じる。
親しみやすい、でも、入れ込みすぎない。好奇心を持って近付き、でも、必要以上に影響しない。
むしろ傍に感じるけれど、手が届かないもどかしさすら感じます。

再演では古谷先生は長谷川さんを率先して煽りに行くようなところがあったのだけど、今回は本当に傍に居てみてる。長谷川さんの言葉の聞き役となっているのが印象的でした。
ここが少し変わっただけで、より長谷川さんは問題児となり、生き生きと目を輝かせて実験に没頭できたのだと思います。
そして、そんな長谷川さんに魅了されて暴走する真辺幸星さん演じる千葉君。
千葉君は藤君と秋生君にとって元々重要な友達で、いつも変わらずそこに居るだけで彼らの救いとなる暖かな存在でもあったのが、今回は物語に加速をつけてゆくニトロのような役目を背負っているのです。
この千葉君という暴走ブースターが、長谷川さんといいバランスで、物語がどんどん加速させて行く。でもきっと、この勢いがなかったら物語りも関係性も停滞して、ラストまでたどり着けなかったかもしれない。
そんな長谷川さんの「意欲」と千葉君の「勢い」は秋生君の気持ちを打ったし、長谷川さんを問題児のリーダーとして団結するのもすごく自然な感じがしました。
ここに過去作では江角先生や古谷先生が絡んでいたのですが、今回は大人は大人で一方白から見守っている。
むしろ、古谷先生は問題児グループの仮リーダーではなく、ちゃんと先生側の傍観者というか観測者で、最後の最後まで先生たちにこそ語りかけてゆくのも先生たちの物語もまた上手く着陸して行く要因に思うんですよね。そう言うところでは先生たちから観たら、まだ生徒の代弁者なのかもしれませんが。

再演から榊小並さんにキャストチェンジしてから、女性ならではのコミュ力と強さで兄貴分から姐御へと変わった江角先生。
再々演の江角先生は、とにかく許容する人。これは今回の物語の中でも重要なキーワードだと思っていて、先生らしく説教もするんだけど、でも生徒を大らかに許容している。そして、元彼で、相当アカン男だったために別れたらしい古谷先生に対しても、その許容は発揮されているわけで。
再演の時は先生たちの中にも関わってたんだけど、今回は徹底して保健室の主、生徒側の許容者。
その許容も深く立ち入り甘やかすことではなく、ままそこにあることを許す受け入れる許容。
長谷川さんがサボってても、千葉君が喚いてても、注意はするけど咎めはしない。
そう言う大らかさがあることがまた物語に影響して行く。
直接、誰かに影響を与えるというよりは物語の象徴的なキーワードの一つとなって居る感じなのですが、でも、この見守って許容する江角先生が傍にいたからこその生徒たちの気づきなのではないかなと思います。

そして、この物語はやっぱり何処まで行っても藤君と秋生君の物語。
だけど、その物語は決して二人だけで閉じた世界で進んできたわけじゃない。

初演、再演、再々演と平行世界を繰り返してきた二人が、やっと、やっと、互いを受け入れるエンドを迎えられる幸せな物語。
藤君も秋生君も最後の最後に、自分たちを取り囲むたくさんの人たちに気がつき、彼らの世界はゆっくりと開かれる。
無理やりでもない、強引にでもない。すごく自然に、無理の無い流れでラストを迎える。

私の中では「ト音」という物語の藤君と秋生君の寂しいけれど決して不幸なラストではないエンドだと思っています。

世界の影響を受け、手を差し伸べられ、見守られ、周囲の生徒も先生たちもまたそこで終わるのではなく先へと進み始める。
そう言う暖かく緩やかな流れの余韻を楽しめる終わり。

初演を観たことが無い人は是非初演を観てほしいと思うし、初演観たけど再々演観て無い人は是非再々演を観てほしい。
全くト音を観たことが無い人は、是非、何処からでもいいので、この物語に触れて欲しい。

これ、まさしくト音三部作の完結編とも言える出来栄えなのです!

好き勝手書いている私ですが、こうして考察して色々考え巡らすこともまた楽しいくらい、本当によく出来ている物語なので是非是非興味をもたれました方は劇場へ足を運んでもらいたいと思います。

これが映像ではなく生で目の前で繰り広げられる贅沢は今しか味わえない最高の贅沢だと思いますから!

是非!

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