toggle
2015-10-12

劇団5454第8回公演【少年の庭】東京千秋楽観戦記!(本日もややネタバレあり

CRHqiCkUEAApRYn

劇団5454第8回公演【少年の庭】東京千秋楽観てまいりました。
最後の最後まで練り上げ続けてきたいいお芝居の千秋楽だったと思います。
一回一回を本当に大切に作っているんだなというのがわかって、だからこそ何度観ても新しい気づきがあって、最後まで楽しませていただきました。
今回はこの後大阪公演が控えておりますが、良い千秋楽だったと思います。

そうなるとやっぱりちょっぴりネタバレ気味なことが語りたいというもので、本日もややネタバレ有になります。
なので、まだ観てない、大阪が初見、DVD楽しみにしてるからネタバレしないで! という方にはお勧めできない内容となっております。
そういう方はそっとこのページを閉じてくださいませ。お互い幸せに暮らしましょうw

では、本日もこの先ネタバレ。
今日はやっぱり主役である稲見と高木マモルの感想というか考察というか、そういうお話。

稲見は特別何か特徴があるわけでもない極一般的な女性。
職業はライター。行方不明者を主に取り扱いドキュメント的な記事を書いているらしい。

らしいというのは今回は取材風景が主で、彼女自身が書き上げたものを公開するシーンがないため。
本人と佐藤の語り口から見て、記事を最後まで形にしきれたことはなく、敏腕記者というよりはやや落ちこぼれ気味な記者。
ある意味特徴のない透明な存在である彼女を通して、私たちは失踪者・高木マモルを追い始める。
いわば彼女は最初は稲見という個性より、高木マモルを私たちに見せるための存在。

私たちは稲見と一緒に高木マモルという人間を追体験し始める。

今回木並さんの演じた稲見は、今までの木並さんが演じてきたような気の強さや華やかさ、高飛車さなどがない、比較的フラットな存在。
キャラ付けがはっきりしてるときっと演じやすいとかあるんだろうなと思うんですが、でも稲見のキャラ立ちが強かったらきっと高木マモルを私たちは見ずに稲見だけを観てしまっていたかもしれない。
少年の庭というこの物語がオムニバスではなくて一本のミステリー仕立てであるために稲見はとても重要な役。
透明であり、その向こうに舞台には上がらないもう一人の主人公高木マモルを見せるために、稲見はずっと高木マモルを見せ続けている。
取材した内容から人となりを見せ、その内容のちぐはぐさからただ事ではない存在感を見せ、そして、最後に君共先生と対決する稲見は高木マモルの代弁者でもあった。

私は舞台を見ている間、ずっと稲見の隣に決してこちらを向かない青年の背中を見ていたように思う。
年齢28歳、元商社勤め、破たんした家族の決壊をギリギリで防いでいて、そして庭の子供たちの兄貴分でもあった青年。
きっとこたろうより背が高いくらいで少し優し気に姿勢が悪く、穏やかな笑みを絶やさない青年。
その顔は見えないけれど、稲見が全部こちらにそれを見せてくれる。

失踪の真相に近づくために庭に入ってからは、高木マモルをたどって追体験してゆく。

庭に集うたくさんの人たちの姿を見て、君共先生の言葉を聞いて、稲見が感じた歪さと同じものをきっと高木マモルも感じていた。
承認欲求が薄く、人間関係に関しては真摯だけれども希薄、どう考えても一人暮らしできなそうな弟を放置して失踪したように見えたが、実は高木マモルはちゃんと見極めて失踪している。
タバコ屋の親父が「大切だと思っていたが、手放してみたらそうではなかった」と笑うラストは、それを教えてくれているようだった。

弟のサトルはなんとか一人で生きてるし、弟のタケルとも一応共存している。
庭の子供たちは不完全な状態であったかもしれないけれど、何とか自分の足で立ってそれぞれの場所に巣立っていった。
君共先生は鶴岡を今はまだ独り立ちさせられなかったかもしれないが、稲見の言葉に学んだ後はきっと鶴岡にも独り立ちの教育ができるかもしれない。

それらはすべて高木が失踪しなければ起こらなかった化学変化。
きっとそこまで考えての失踪だったのではないかなと思うくらいのギミック。

そして、稲見が君共に「庭を壊す」と言ったのは高木マモルの言葉でもあったのではないかなと思う。

鶴岡の暴走で壊れ始めた庭を見捨てるだけでなく、別天地へ失踪してまで君共と袂を別けたのは何故なんだろう?
その謎はちゃんと稲見が教えてくれたように思います。
高木マモルは庭を去り、別天地で自分が理想とする新たな庭を造ることで「君共先生の庭」を壊した。
教育に育てられ、居場所を守るために依存するような庭ではなく、人に育てられ、こたろうのような泥だらけの子供もいられる「高木マモルの庭」。
稲見は東家のタバコ屋という稲見の理想の庭を観ていたために、そこのために「君共先生の庭」を壊す。
稲見の庭は稲見が作ったものでもないし、ちょっと姿は変えてしまったけれど、それでもきちんと子供たちを見守る庭として残った。

そして実はここで皮肉なことに君共先生の教育の良さも証明されている。
君共先生の庭の子供である稲見と高木マモルの二人は立派に独り立ちして、庭から旅立ったのだから。

この物語の希望はすべての事に希望があること。この先どうなるかはわからない。また同じような過ちをおかすかもしれない。でも、そこには未来も希望もあって、もっとたくさんの可能性がある。
そういういつもの5454さんの胸に温かく残るものをきちんと稲見は胸に届けてくれている。

どうしていいかわからなくなっちゃったんだよね
その迷いは希望に満ちた選択肢がたくさんある未来がみんなにあるから。

すごく気持ちよくて、やっぱり帰りに晴れた空を見て良かったなぁっ! って思える清々しさと温かさを胸にできる。
ミステリーというギミックの中でこの一見するとミステリーからは遠のいてしまいそうなものを木並さんの演じる稲見はばっちり送り届けてくれたと思います。
すっごく難しい役だったと思うんですよね。特徴がない時点ですでに難しいし、稲見という人間と高木マモルという人間も背負って、二倍のご苦労もあったことと思います。
それでも、いつも5454のお芝居の千秋楽の後には思うのですが、このお話の主演が今回は木並さんでよかったなぁって思うんです。
春陽さんの配役と演出の上手さでもあり、また、ここまで役を作ってお話を作って磨き上げてくる5454という劇団のすごさでもあり、稲見を背負って舞台に上がる木並さんのすごさでもある。
本当に良いお芝居だったと、語彙の無い私にはそれしか言葉にならないのだけど、本当に面白かったし、いい舞台でした。

千秋楽後に皆様と少しお話させていただいたときに、この後まだ大阪公演に向けて稽古あるんですよ! という情報もうかがいましたので、きっと大阪はまた進化を遂げて幕開けなのではないかと期待しつつも、でも、今日のこの素晴らしい舞台に惜しみない拍手を送りたいと思います!

素敵な舞台と物語をありがとうございました!
大阪公演頑張ってください!

大阪の客席に座れる日を楽しみにしています!
お疲れ様でした!

関連記事