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2017-07-10

佐藤りんだプロデュース公演「いつもマントにシェークスピア」観戦記! その2

いつもマントにシェークスピア、盛況の千穐楽おめでとうございました。
もう一回観たかったなぁと思いながらも、胸に焼き付けて参りましたので少し追記の観戦記です。

今回の「いつもマントにシェークスピア」のこれを語らずして何を語ろうかというのが「佐藤りんだプロデュース」だと思うのですよ。
りんださんという人はプロデューサーとしても尊敬する方なのですが、今回も色んな魔法を見せてもらいました。
何がすごいって、木村龍之介さんとカクシンハンという素材と劇団5454という素材の両方を決して妥協させることなく組み合わせた上に、ちゃんと佐藤りんだしてるわけです。
りんださんのプロデュースは凝った材料で複雑なものを作り上げるようなものではなく、最高の条件でシンプルなものを最高な状態で提供してくれるもの。
例えるなら、暑い日で喉が乾ききっている時に程よく冷えた美味しいお水を素敵なグラスで飲ませてくれるような演出。でも無理やり日に当てたり喉が渇くようなことはさせない。自然に流れる様に喉が渇いていたことを思い出させてくれて、口にする水の美味しさに気づかせてくれる。

今回もシェークスピアという誰もが知ってるけど実はそんなに詳しくないという素材を、決して妥協することなく追い求めてきた木村龍之介さんとカクシンハンという最高の料理で、それを決して気取ることなく一番吸収しやすい方法で提供してくれたのが、この「いつもマントにシェークスピア」だったと思うのです。

今回は両極端な世界の観客があの絵空箱に集まっていました。
前衛的な世界観を是とするカクシンハン組と、日常の中にハレを見出すことを是とする5454組。
これって結構すごい事で、割と客層が重ならない所だと思うのですよ。
どっちがいいとか悪いではなくて、好きが分かれる世界だから。
その世界を繋いだのは間違いなく佐藤りんだという魔法使いの魔法です。

木村龍之介さんという一人の探究者の姿を、パトスが生み出した世界と共に紹介すると同時に、ロゴスの生み出す穏やかな素の姿をホームコメディという柔らかな世界で表現する。
穏やかな話しぶり、されどそこに秘められた表現は苛烈でもあり鮮烈。そんな二面性を対立させることなく一つの軸の上でくるくると回し続けた故に、どちらの世界の住人であっても互いを受け入れ拒むことなく楽しめたと思います。

そして、そんな魔法の一つであり、前回の観戦記ではネタバレ回避にさっとだけご紹介したコメディ部分でございます。

迫力のタイタス・アンドロニカスの朗読のあとに続くこのパーツは、プロローグから揺さぶられ続けたものを一気に転換させてくれる。
正直、可愛いと言うか、和む。めっちゃ和む。
言わずと知れた関幸治様ヲタクである私は当然劇団5454も大好きで、普段はこのコミカルさをこよなく愛しているわけでもありますが、そんな私でもこのコメディーパートは佑樹丸くん&廉平くんユニットの作品の中でTOP3に入る和みでした。
観客側はもちろん、演じてるみんなが本当に楽しそうでニコニコしてるのがすごく和む。
突飛な笑いで転換するのではなく、クスクスと思わず笑ってしまうような自然に湧きあがる笑いで揺さぶられ続けた気持ちを少し穏やかにしてくれる。
シェークスピアとも木村龍之介さんともちゃんと絡んでいて、軸のブレが無い。

タイタス・アンドロニカスなんて絶望的なお話から、どうやってロミジュリに繋ぐんだろうととプログラムを拝見した時から興味津々だったのですが、これを観て、あー! やられたなー! と思いましたw
だって、見事に和んじゃって気持ちもふらっとで穏やかになってる。これならすっかりロミオとジュリエット待機ですよ。
どろどろの愛憎劇で惨劇の限りを尽し、亡霊の語る忌まわしき物語のたった数十分後に、ワクワクと恋に踊るジュリエットの姿を見ても、すべてがちゃんと胸の納まるべきところに納まってる。
タイタス・アンドロニカスもロミオとジュリエットもきちんと互いと鬩ぎ合うことなく、私の中に納まっている。

そんな気持ちで無言劇のロミオとジュリエットを見送り、エピローグでの音楽と木村さんの言葉。

終ってみれば、ボーイソプラノの歌声、ピアノとバイオリンの演奏、バレエの演出、すべてがとてもシェークスピア的で、古典演劇の美しき良き姿をこの小さな箱の中に詰め込んだような舞台でした。

シェークスピアは歌舞伎であり、シェークスピアを演出する者はみな浮世絵師のようだと前回の観戦記で私は書いたのですが、りんださんもまた素晴らしき浮世絵師のお一人です。
今回のりんださんはシェークスピアという歌舞伎の世界を描かれたわけですが、これを観てしまうともっと別の絵も観たくなっています。

きっと、次もまた素敵な浮世を描いてくださるだろうと期待して、観戦記を締めくくらせていただきます。

お疲れ様でした!

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